12.別離

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 老女が泣きそうな、困った顔をして笑う。 「はあぁ、そんなに、大切なもんなのぉ?」 「はい」  老女は呆れて笑った。 「手袋とか、長靴とか、用意してきてねぇ」  それから老女の了解のもと、毎日来て探したけれど、もう一つはどうしても見つからなかった。  そして、明日から駐車場にする工事が始まる最後の日ーー関東全域を春の嵐が襲うという予報通り、日中でも、暗く重い雲が空を覆っていた。  どぶ水をさらい、ごみの中まで探したけど、やはり、ストラップは見つからなかった。雨が降ってきて、寂し気に老女が上から顔を見せる。 「加世子ちゃん、もう、終わりにしな」
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