第二章  その男「同志」〓〓

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 ママの目がうるんでいた。  ぼくは「ちょっと」胸をつかれた。 「無理に行くことはないんですが。。。」 「いったい何の『集まり』なの?『字音群』って?」 「SFファンのソーシャル・ネットなんです」 「エスエフって、あの、薩長のイモが、公方様に勝っちゃったなんていうメチャクチャ書く、アレのこと?」 「あっ!『江戸城の男(※1)』だね。ママ読んだの?」  ママは少し「バツ」のわるそうな顔をした。   「江戸城の男」は、十辺舎一九(※2)の流れを組む、不入符家出九(ふいりぷけ・でっく)(※3)という「戯作者」の書いた小説だ。  戊申戦争の「勝敗」が逆になった世界を描いている。  SFファンのぼくは面白く読んだが、公方様に弓ひくような描写にはさすがに、好感がもてなかった。 「あれは発禁だろう?」 「そうですね。天領では」 「確か、作者は『手鎖(※4)』になったのよね」 「あんなことを書いたのに『手鎖』だけとは、お上の慈悲にもほどがある。薩摩に『亡命』して、印税で『高い城』(※5)を築いてノウノウと天寿をまっとうしたそうじゃないか!あいつも西の出身だろう?」 「SFを書く作家は、西の方の方が多いみたいですね」 「そうだ。そうだろうとも。あんなデタラメを書くのは『関西人』に決まっている。阪神の応援団と同じだ。関ヶ原、戊申以来の怨念のエネルギーだ。君」  傷だらけの、顔をグッと近づけた。  
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