第二章  その男「同志」〓〓

4/5
前へ
/46ページ
次へ
 再びハラハラと大粒の涙を流した。 「掛布め。チバラギ族めが!裏切り者!」  男は、そう吐き捨てるように言うと、「うう」と泣きくずれた。 「掛布・・・・って?」 「昔の阪神のスター選手よ」 「え、ええ。名前だけは知ってます。今は、解説者ですよね」 「昭和60年だったかしら?21年ぶりの優勝とかで、大騒ぎになった年の、阪神の中心選手」 「掛布・バース・岡田・・・三連続ホームランとかいう伝説聞いたことあります」 「先生は、生まれてた?」 「いや。。。まだ生まれてないです」 「・・・時間が経つのは早いわねえ」  遠い目になった。 「疑ったりしてすなまかった。悪気はないんだ。どうかゆるしてくれたまえ」  男は、若輩のぼくに、率直に頭を下げた。  どうやら「いい人」らしい。 「横浜★」ファンに「悪い人」のいようはずもない。 「それにしてもいまだに『掛布』を恨んでるなんて、よっぽど阪神が嫌いなんだねえ」  ママが客に言った。   「何かよほど嫌な記憶をお持ちですね」  ぼくも訊いた。 「話してみない?」  ママが言った。 「あたしも先生も、横浜ファンだし、阪神なんて『だ~い嫌い』なんだから」  
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加