『千の夏に連れられて』

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「そうね、せっかくの夏休みなんだから、どこか出掛けましょうか?」 「聞けよ、人の話」 「あ、でも制服でってのは解放感が足りないわね……」 「おい」 さながら旅行を計画するような陽気さの千夏には、令士の不機嫌オーラは見えていないようだった。 「よし、明日海に行くわよ」 「……俺は、行かないぞ」 「集合場所は……分かりやすく駅前ね、時間は、9時半」 「…………行かないからな」 聞く耳持たないとはこの事かと令士は思う。 (マズイ。これ以上付き合いきれん) そそくさとその場を後にしようとして―― 「――って、ちょっと待て!! テメェいつの間に俺の携帯パクった!!」 千夏の手に見慣れた携帯があることに気付いた。 いつもズボンの左ポケットに入れていたはずのそれが何故……。 「あ、これ? 屋上から逃げる前に落ちてたのを拾ったのよ」 あの時か。 どこかの誰かが扉を蹴り飛ばして屋上に来たときに驚いて落としていたのか。 「ヤバかったわよ~? これが教師に見つかってたら身元バレてたし」 「……そもそもの原因が何を言ってやがる。大体お前が来なけりゃ――って勝手に何を操作した!?」 「アドレス帳に私の番号とメアド登録しただけだけど? 最近色々と携帯使った犯罪とかあるんだからロックくらいやっておきなさいよ」 そう言って携帯を投げ返す。 「無理矢理発信器でも埋め込まれた気分だ……」
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