『千の夏に連れられて』

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令士は基本的に早起きだ。 授業の有無に関係なく朝の五時半前後には必ず起きる。 この時間に起きてしまうことは、令士にとって忌々しい習慣だった。 居留守ばかり使っていたあの時、この時間に訪問してくる常識知らずがおり、毎朝強制的に起こされたからの習慣だからだ。 「今日は、海に行くんだっけ?」 乗り気ではないが、一応昨日の内に準備は済ませてある。 水着やらビーチサンダルやら、必要と思われるものを購入した。 (しかし、どう見てもこれは楽しみにしている人間の行動だよな……) 前日に必要なものを購入し、当日に早起きする。 しかも――自分もそうだから強く言えないが――変わり者である千夏だが“一応”女である。 そして自分は男。 男女で出かけることを、世間一般ではデートと呼ぶ。 「…………」 そんな思考を必死に頭から追い出し、朝食にする。 7時。 朝食も終え、早くも太陽が情け容赦のない日差しを浴びせていた。 今日も憎たらしい位に晴れだ。 コーヒーを飲みながらのんびりと過ごしていると、 『――――!! ――――!!』 飾り気のない初期設定の着信音が鳴った。 着信を知らせる液晶には、 『我天上天下唯我独尊である』 と表示されていた。 登録可能文字数ギリギリ。意味不明だ。 意味は不明だが、通話ボタンを押し、 「何だ? この意味不明な登録名は」 開口一番不機嫌そうに苦情が漏れた。 『インパクトよ』 彼女はハッキリとそう言った。
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