『千の夏に連れられて』

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こんな登録した覚えのない意味不明な名。 こんなことをする人物は、令士の知る限り一人しかいない。 「インパクトよりも分かりやすさを重視してくれ」 『以後善処するわ――ってまだ7時頃だってのにもう令士は起きてるの?』 「そこに驚くならこの時間に電話してくるなよ。……俺は、基本的に早起きなんだよ」 その理由は口にしない。 「ふ~ん、まぁ良いわ。約束、忘れないでねって確認の電話だから。9時半に駅前よ。遅れないように」 それだけ言うと電話は切れる。 「……」 久しぶりに鳴った電話は、竜巻のように突然やって来て、去っていった。 意外と律儀な奴なんだな。 そう結論付けておこう。 昨日から思考の端から消えない一つの懸念―― 『あれだけ積極的な性格だったら知り合いは多いだろうに、何故自分を誘ったのか?』 という疑問に対する解答に直結しているような気がする。 それはつまり、千夏は自分の事が―― 「……それはないな」 好意を持たれる理由がない。 それに、初対面の相手に向かってあんな無愛想にしていたら逆の反応を示すのが普通だ。 「つまり、あいつは変わり者ってことだ」 そう納得しておく。 いくらなんでも早すぎるか。 そう令士は思いながらも、陽炎漂う真夏の道を駅に向かって歩く。 時刻は約束まで三十分も余裕がある9時前。 他人を待たせるなんて考えられない。 実に日本人的な思考だ。 と、間もなく目的地の駅に着く。 どこで時間を潰そうかと考えていると、 見覚えのある人物がいた。 「あら? 早いじゃないの」 「……それはこっちの台詞だ」 千夏がそこにいたのだ。 しかも、 「なんだテメェは」 柄の悪い男二人に大絶賛ナンパされながら。
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