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次の瞬間、男の体が宙を舞った。
何が起きたのか分からない。
千夏の腕を掴んだ男が、まるでアクション映画のワンシーン――ワイヤーアクションで不自然に飛ばされるかのように吹っ飛んだのだ。
「…………え?」
令士の胸ぐらを掴んでいた男は、目の前で起こった信じられない光景に、掴んだ腕の力を思わず緩めた。
その一瞬を見逃さず令士はその拘束を外した。
「あ、テメェ――」
それに気付いた男は反射的に拳を突き出そうとして――
横からきた何かに逆に吹っ飛ばされた。
(数秒前に同じように吹っ飛んだ光景を見た気がする――)
目の前で立て続けに起こった光景。
「……お前、何をやった?」
「ちょっとした護身術よ」
当たり前とでも言いたげなニュアンスで千夏は言った。
「さて、ちょっと早いけど行きましょうか」
昨日屋上から令士を連れ出した――正確にはその後蹴り飛ばした――時のように腕を掴み、強引に引っ張って駅へと連れ込まれた。
(切り替えが早いというか、マイペースというか……)
駅に入ると千夏は令士へ切符を渡した。
予め買っておいたらしい。
(一体いつから待ってたんだ?)
今朝七時に電話をよこしたが、まさかその時には駅にいたのではないか。
まさかと思いつつもその可能性を否定できない。
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