『千の夏に連れられて』

12/13
129人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
人と自然の合作。 素直に令士は感動を覚えた。 が、それも長く続かなかった。 「ありゃ?」 「ん? どうした?」 見ると前方の木の枝が道を遮るように垂れて伸びてきていた。 まぁこれも『自然は人間の思い通りにはならない』ことを教えてくれていると思えば、風情がある。 ――と思ったのは令士だけだったようだ。 「……邪魔ね」 「は?」 「ちょっと、これ持ってて」 千夏は自分のバッグを令士へ投げて渡すと、通路を防ぐ枝に向かって走り出した。 まさか―― 「おんだりゃぁぁぁぁぁぁああああ!!」 何かを思い出させる飛び蹴り。 ああそうか、あの時もこんな感じで遮る扉を吹っ飛ばしたのか。 結構な太さの枝を飛び蹴りでへし折ると、何事もなかったかのように千夏は戻ってきた。 そして渡したバッグを受け取ると平然とした顔で、 「もうすぐで着くわよ」 「その前に飛び蹴りの説明だろ――ってまさかお前、ここはそうやって作った自前じゃないだろうな? 昔の農道を塞ぐ形で伸びた枝をそうやって作った」 よく見ると不自然に折れた枝も見受けられる。 令士の問いに、千夏は、 「もうすぐで着くわよ」 思いっきりシカトした。 「テメェ、さっきまでの俺の感動を返しやがれ!! 何が自然と人間による合作だ、思いっきり力業じゃねぇかよ」
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!