『千の夏に連れられて』

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令士の抗議の声を完全に無視しながら歩き続ける千夏。 やがて木のトンネルが終わりに差し掛かると、 (波の音? それと、潮の香り) 抜けた先にあったのは―― 「……これは、凄いな」 まるで一枚の精巧な絵画か童話の中の世界だった。 そこは洞窟の奥にある砂浜だった。 洞窟そのものはそれほど深くなく、海側の入り口が広いのでそこから日の光が入り込んできて明るい。 「凄いでしょ? 私自慢の秘密の砂浜よ。私しか知らないプライベートビーチよ。裸で泳いだって文句言われないんだから」 「あっちから誰か入ってくるんじゃないのか」 文句を言われないということは試した事があるのか。 という部分には触れないでおく。 「それは無理よ。だって向こうは岩礁とかの関係でここに近づけば近づくほど波がキツくなっているから」 試したんかい。というツッコミも言わない。 「じゃあ、泳ごうか」 「まぁ、ずっとこうしていても仕方ないし――ってお前何してんだ!!」 令士は千夏の予想外の行動に大声を上げた。 何の躊躇いもなく服を脱ぎ始めたのだ。 「何って、水着に着替えるだけだけど?」 「あ、あのな、お前は女だろうが。男の前で着替えなんて、その……」 「あれ~、顔を真っ赤にしちゃって、もしかして意識しちゃった?」 「お、俺だって男だぞ……」 視線を反らす令士。 全く、なんという女だ。 「大丈夫よ、大丈夫。予め服の下に水着来てきたんだから」 「小学生か、お前は」 ガクッと大きく肩を落とす令士であった。 久々に泳いだ海は、 とても冷たくて心地よくて、 目が痛かった。
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