『始まりは唐突に』

2/6
129人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
「……はぁ」 日本全土に梅雨明け宣言が発表された夏休みの初日。 矢城令士は学校屋上の隅っこで大きくため息を漏らした。 公立高校に通う二年生。 全国平均を大きく上回る筋肉質な体格。 やや凶暴そうな雰囲気を感じるのは、つり上がった目付きと眉間に寄った皺のせいだろうか。 「……ったく、毎年毎年無駄にクソ暑いんだよ」 口調から不機嫌さが伝わってくる。 一応断っておくが、彼は補習対象者ではない。 今日は夏休み初日――期間中だが、学校は補習やら部活などで生徒の出入りは自由だ。 ちなみにこの屋上は危険防止の為に生徒の立ち入りは禁止なのだが、令士はそれを無視していた。 扉には勿論鍵がかかっているのだが、多少乱暴にドアノブを逆に捻りながら引くと簡単に開くのだ。 誰も知らないのでここは令士だけの空間だった。 何故彼が夏休み初日にこんな場所にいるのかというと、 『ここ以上に一人になれる場所はないから』 という理由からだった。 それなりに著名な作家だった父が死んで今年で三年。 当時は色々とゴタゴタしたものだが、旧知の弁護士がそれらをあっさりと解決してくれた。 おかげさまで金銭面での問題はないのだが、 「さて、どうしたものかな」 誰に言うでもなく呟く。 答えが出るはずもないが、そうでも言っていないとやってられない気分なのである。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!