『始まりは唐突に』

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と、ガチャガチャという音が令士の思考を遮った。 屋上の出入り口を誰かが開けようとしているのだ。 (見回り、か?) 真夏の暑さとは正反対の冷たさが背筋に一瞬走った。 生徒が立ち入り禁止の屋上。 教師に見つかれば、説教だけでは済まないかもしれない。 (施錠されている場所にわざわざ見回りが来るとは思えない) 点検の業者が来たのか。 施錠されているかの確認なのか。 今からどこかの部活が使うのか。 一番最悪のパターンは、 「……ここにいることが、バレたか」 それなら逃げても時間の問題だ。 部活やら何やらなら人混みに紛れればどうとでもなるのだが……。 「あれ? 確かこうすれば開くはずだったのに」 若い女性の声。 教師にしては、若すぎる。 (生徒か? それに“こうすれば開くはずだった”だと?) ガチャガチャという音はまだ続いている。 それはじょじょに大きくなり―― 「これは、私に対する挑戦ね……それなら――」 一拍置いて、 「おんどりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 とてつもない破壊音が響いた。 あまりの音に令士は起き上がり、そして見た。 くの字に折れ曲がった扉が宙を舞い、それと共に女の子が飛んできた。 それがその女の子の飛び蹴りによるものだと気付くのはそう難しくなかった。 一緒に飛んできたことと、 飛び蹴りの姿勢のまま――スカートが捲れ上がり、中身が丸見えだったからだ。 飛び蹴りの勢いそのままにスライディングするかのようにして止まると、 「フっフっフ、扉ごときが私の前に立ちはだかろうなんて生意気ってことよ。そんな邪魔なモノは粉砕されて当然よ」 とんでもないことを平然と言ってのけた。 この破天荒な少女が令士の夏をより暑くし、 忘れられない特別なものとするのであった。
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