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「大丈夫、枝は太いから。それに人間死ぬ気になればこの位可能よ。――さっさと飛べ!!」
覚悟を決める前に令士は飛んだ――蹴り飛ばされた。
一瞬だけ『空を飛んでいる』と錯覚した次の瞬間、『落下している』ことを実感。
考える時間も与えられないまま本能――生への渇望――のままに体が動き、太い枝にしがみついた。
生きている。
それを確認すると、
「お前、下手すりゃこれは殺人――」
上を向くと今度は少女が飛んでいた。
スカートの中が見える心配など皆無のように。
辛うじて枝にしがみついている令士とは違い、少女は見事に枝の上に着地していた。
「お前はくの一か? それとも進化を忘れた野生児か」
「無駄話している暇はないわ。まずはさっさと下に降りる。上の教師に見つかっちゃうわよ」
「……よ~し、ここまで来たら大丈夫ね」
無駄に広いことで有名な中庭の端にあるベンチで二人は休んでいた。
「お、お前は、無茶苦茶すぎる……」
肉体的疲労以上に精神的に疲れた。
「さて、まずは自己紹介からかしら?」
「……何が自己紹介だぁ? 危うく殺しかけた人間に呑気に自己紹介だ? 何なんだよお前は――」
「千夏よ」
「は?」
「だから、“お前”じゃなくて“千夏”よ。千の夏って書いて千夏。私の名前は大倉千夏」
このタイミングで普通、自己紹介するか?
しかも令士が大嫌いな夏が千ときたもんだ。
「あんたは?」
ややトーンが下がるのを令士は感じた。
どうやら、この少女――千夏からペースを握るのは無理らしい。
「……矢城、令士」
「レオ、カッコいい名前じゃん」
本当に慇懃無礼で無茶苦茶なやつだ。
真夏で暑いはずなのに、妙に清々しさを感じるのはこいつ――千夏が思いきりがいいからか?
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