『千の夏に連れられて』

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「名前なんてどうでもいい。最初から気になっていたがお前――」 「千夏で良いわよ」 「……千夏」 「ハイハ~イ」 名前を呼んだだけで満面の笑顔を見せる千夏。 見た目は良いだけに令士は一瞬躊躇したが、 「――本当にうちの二年生か?」 「……え゛」 その反応、やっぱりか。 「な、ななな何で、そうおおお思うのかしらぁ? み、見なさいよ、ここの制服着ているじゃない」 完全に動揺していた。 「制服着てりゃそこの生徒だなんて証拠にならん。貰うか借りるか盗むかして着れば良いだけだ」 「……意外にも冷静なのね」 「もう一つ、情報が断片的というか曖昧だ。まるで“自分は知らないけど知り合いから聞いた”みたいに」 そして何より、色んな意味で有名な自分のことを名前を聞くまで知らなかった。 これが一番の理由だ。 「ふ~ん、中々鋭い推理ね」 「単なる観察眼だ」 「まぁ、意地になって隠すことでもないから良いか」 千夏はあっさりと認めた。 「確かに私は現在ここに通っている生徒じゃないわ。あ、夏休み明けに転校するって訳でもないわよ」 「転校生だとしても色々と問題が残るが、それでもないってことは完全に不審者じゃないかよ」 「ん~、私の正体についてはシークレットってことで。――あ、制服の入手ルートも内緒よ。大丈夫、犯罪な類いじゃないから」 既に不法侵入と器物破損と殺人未遂をやった奴が今更何を言いやがる。 「まぁ、なんて言うのかしらね。この夏を満喫したくてハイテンションになってたって感じかしら」 その言葉を聞いて令士は露骨に表情をしかめた。 「――だったら、一人で勝手に満喫してくれ」 「あれ? 急に怒ってどうしたのよ」 「……俺は夏が大嫌いなんだよ」
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