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「ぜぇ…はぁ…」
広い店内を本当に一人で掃除した私は息も絶え絶えにソファーに倒れ込んだ。
「う゛~体痛いよ~…」
ここ最近はまともな運動をしていなかった体がキシキシと悲鳴を上げている。
「掃除も満足に出来ないのかお前は…」
呆れたような溜め息と共に零された言葉に物申してやろうとガバッと体を起こし(この間、背筋がビキッて痛くなったのは気のせいじゃない)口を開いた刹那…目の前に置かれた紅茶のカップ。
「……」
「……」
飲んでいいのか迷うのは私だけではないはずだ。朔夜と紅茶のカップを交互に見やって…もう一度朔夜を見るとまた深い溜め息を吐かれて…。
畜生…無駄に綺麗な顔しやがって…。
「…ま、お疲れさん」
ポンっと頭に置かれた手のひらが、妙に擽ったくて。
「…あ、りがと」
らしくもない素直なお礼を口にして、温かな紅茶を飲み干した。
少しだけ甘い紅茶はまるで彼のようだと思った。
飲み干して、何だか気恥ずかしくて私は立ち上がる。
「せ、宣伝にいてきます!」
「…熱心だな」
「じっとしてられないからね!」
本当は突然の彼の優しさに戸惑ったからだけど。
街を歩く、ショーウィンドウに映る私の顔は紅茶みたいに赤くって。
「なんて顔してんだか…」
小さく苦笑して駆け出した。
もっと誉めて貰いたいなんて、幼い子供のような願いが…疲れた私の足を前へ前へと進めていく。
「やったるからな~朔夜のバカヤロ~」
思うつぼだなんてそんなこと、言われなくても分かっている。
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