邪悪なる者

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そこには身体の上半身を壁から出した沙穂と、腕の形をした黒い影が両腕で沙穂の肩を羽交い絞めにし、壁に引きずり込もうとしていた。 そこには既に勇気の姿は無かった。 この状況が尋常ではない事は理解しているが、そんな事を考える余裕など無く、自分の目で見てしまった現実を受け入れるしかなかった。 とっさに「やめろ!!娘を返せ!!」と声を荒立てた。 すると「俺を呼んだのはお前だろう。これを望んだのもお前だ。」と耳からではなく、脳に直接語りかけてくる声が聞こえてきた。 英雄が「お前誰だ!?何故こんな事をする!?」と問うと、「私はお前そのものだ。お前が魔王と呼ぶのであれば、私は魔王だ。」と返してきた。 信じがたいが、これは自分の作り出した夢ではないのかと疑いたくなった。 しかし、目の前には苦しんでいる沙穂がいる。 この状況をどうにかしなければならないと、とっさに「沙穂!!つかまれ!!」と手を伸ばしたが、沙穂はあっという間に壁に吸い込まれていった。 英雄は暫く放心状態だった。 受け入れがたい事だが自分の作り出してしまった「魔王」は自分の邪念が作り出してしまったものだと理解した。
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