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神社の境内に息を荒くした男が倒れていた。呼吸をすると激しく痛むらしく、顔を時折しかめていた。
ジャリ
境内の砂利を踏む音。その次の瞬間には、男の耳元でそれは鳴っていた。
「よォ、お前さん、惨敗ぜよ。素晴らしいまでの負けっぷりだったぜよ」
にやにやと男の顔を覗き込む金髪の青年。
「艮(うしとら)さん…」
男は金髪の青年の名を呼んだ。
「じゃ、病院…」
「…屍が喋るか」
金髪の青年…鬼束 艮の言葉を遮るように着物を着て、刀を佩(は)いている以外は、特徴の無い黒髪の青年が言った。
「……」
二人が無言になる中、つかつかと歩み寄り抜刀。倒れた男の胸を貫いた。
「…!?」
何が何だか分からない。と、いった表情のまま男は一度大きく震えて血を溢す。それを見計らって青年が刃を抜く。
「…っ!!」
艮が驚いたように目を見開いて
「樹(いつき)っ! お前っ」
と怒号をあげる。
「どうした?」
樹と呼ばれた青年は口を歪める。
「仲間を殺すなよ。お前が言い始めた事ぜよ。それに、あいつはお前が…」
「殺人鬼が殺すのは当たり前だろ? それに、鬼が医者に診てもらうなどナンセンスだ」
「…っ」
冷酷な一言に、艮は黙り込む。
「…帰るぞ」
樹の脳裏に鮮やかな一撃が浮かぶ。
――あぁ…殺りたい。
「…そうだ。樹、耐えろよな。まだ、お前が出る幕じゃない」
冷や汗を流した艮が言う。殺気に気が付いたのだろうか…。と考えながら
「分かってる。アイツと戦っちゃ駄目なんだろ?」
ニッと樹は艮に向かって、笑った。
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