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翌朝。目覚めた俺は、ぼうとした頭を軽く振った。ベッド脇に置いた刀子を拾い、鞘から抜いて刃を見る。歪んだ自分の顔がぼんやりと見える。
「……」
鞘に納めてから、着替えて下の階に降りた。
「おはよう」
と祖父は既に食卓に着いていた。
「おはよう」
と返す。
「刀子は?」
「此処」
鞄を指し示す。その内側のポケットにすっぽりと納まったのだ。流石に大っぴらに刀を持てない役職が使う刀子らしく、暗器じみている。
「…そうか」
祖父は少し、考え込み
「まぁ…良いか」
と呟いて手を合わせた。
食事が終わり、俺は家を出た。神社の境内に寄ると、死体も血痕もあれがまるで夢だったかのように綺麗さっぱり消え失せていた。
「……」
――警察もいないと言う事はどういう意味だ…?
そこで俺の脳裏に、一人の男が浮かんだ。あいつは何て言ってた?
――…俺の組織に入れよ……まぁ殺してるだけなんだけどな…。
そうか…殺人鬼の集まりと考えれば道理が通る。消えた死体や血痕はあいつ等が処理したに違い無い。
「……何て話だ…くそっ」
俺は、自分の思考に毒付いた。俺はあんなに否定した殺人をしちまったじゃねぇか。
思考が停止し、呼吸が僅かに荒くなる。背中の傷が疼いていた。が、俺は何とか冷静さを何とか取り戻しつつ、学校への道を生徒の波に埋もれながら歩んでいた。それでも俺はまだ、ボーっとしていたのだろう。だから、校門近くで瞬間的に感じてしまった殺気に反応して鞄から刀子を取り出し、束頭が鞄の外に出た所で硬直した。
――俺は…今、何をしてる?
目の前にいるのは三鷹だ。カッターの刃をしまって、にやりと笑った。
「よ、巫。面白そうな代物を持ってんな」
「……」
俺は鞄に刀子を戻す。恐らく、見たのは三鷹一人だけだろう。
「屋上、行こうぜ」
三鷹は、すたすたと先に行く。俺は置いてかれないように必死に付いて行く。
――…俺は…三鷹を殺そうとしてたのか…?
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