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高校一年生の春。
桜の花が満開に咲き乱れようとしていた、その日に。
「…ユイ───」
この世から、一人の少女が黄泉の国へと旅立った。
物言わぬ骸となってしまった少女。その隣に立つ少年は、泣き崩れず、決して涙を見せないままに、その少女の手を握っていた。
しかしその表情からは、悲しみの色以外は読み取ることは出来ない。
「…あんなことで…お前の命は…ッ!」
少年は少女の顔をしっかりと見ながら、顔を歪ませて呟く。
が、ため息と共に表情を緩めると、握っていた手を離して、傍らからある物を取り出し少女に渡す。
「…お前のギターだ。しっかり持ってけよ」
少女の遺体が安置されている、暗い小さな室内。少年は最後に、じっと少女の顔を見つめる。
決して忘れる事がないように。彼女との楽しかった日々を、大切な思い出を。
暫く経ち、少女に背を向けた彼は泣き崩れる遺族の間を抜け、小さな扉から外へ出て行った。
そして───
「…ここか」
彼は、少女と共に過ごしていた思い出の街を、逃げる様に去り、新たな地へと降りたっていた。
「…眩しいな」
物語の始まりの舞台となる、この街に──。
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