歌姫の憂鬱

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   ワゴンのドアを閉めた瞬間、九鬼は盛大な溜め息をついた。 「悪いな、朱里。杉本さん来るって知ってたら、もう少しどうにかしたんだけど」 「いいよ。どれだけ避けたって、顔合わせなきゃ仕方ない時もあるって……」  後部シートで脚を投げ出し伸びをする朱里を見て、九鬼は頭をがしがしと掻く。 「……何でこうなるかねえ。仲、良かったのに……」 「九鬼さん」 「はいはい、行きましょうか、姫様」  朱里は被っていたスポーツキャップを脱ぐと、投げ捨てるようにシートに置いた。  このスポーツキャップは、8年前に貴文から貰ったものだ。  捨てられずに、仕事先まで持ち歩いてしまう自分が、朱里はいいかげん嫌だった。  8年前とは、何もかも違ってしまった現在ごと。 .
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