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「……朱里……」
「いつも一緒だから、こんなこと書かれるんだよねぇ……」
朱里はスポーツキャップを脱ぐと、そのまま俯いた。
長くつややかな髪がはらりと流れて、朱里の顔が隠れる。
「……うらやましいなぁ……美村さん、こんな誤解されるくらい貴文といっしょにいられて……」
「朱里」
順子は朱里の肩を掴んで、顔を上げさせた。
「──!」
見開かれた朱里の目から、涙がぽろぽろとこぼれ落ちる。
瞳の奥が、悲しみに満ちていた。
その悲しみの色のあまりの深さに、順子はそのまま朱里を抱きしめる。
「大丈夫……杉本さん、そんな人じゃないってこと、あなたが一番判ってるでしょ?」
順子の必死な声は朱里に聞こえてはいたが、答えることはできなかった。
落ち着かなければ、と自分で自分を諌めようとするが、あとからあとから沸き上がってくる疑問に押し潰されそうになる。
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