歌姫と朱里

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   新幹線の中で九鬼は何度も貴文本人に連絡を取ろうとしたが、電源が切られていて繋がらなかった。  朱里がホールに入ったころ、昼間のワイドショーは放送時間ぎりぎりで貴文と麗亜のことをかぎつけたらしく、大げさに報じた。 「朱里……あと2時間で開場だ。頼むからリハーサル、出てくれ」  楽屋のテレビで騒いでいるコメンテーター達を眺める朱里に、九鬼は焦れる。 「今、吹き替えの由紀ちゃんが代わりにやってくれてるけど……最終確認は自分でやる、それがポリシーだろ?」 「……判ってるよ……判ってるけど、今動きたくない」 「朱里」 「やらなきゃいけないことは判ってるってば! こうして座ってる時間なんてないこと、判ってるよ!!」  朱里が勢いよく立ち上がると、パイプ椅子がガタンと倒れた。  黙って見ていた順子はパイプ椅子をまた立たせると、朱里の顔をじっと見る。 「……リフトのチェックして、照明と音響のテスト……由紀ちゃんとあたしは声が違うから、あたしがやらなきゃって……判ってるよ」  すると九鬼は、自分のパソコンを少し操作すると、その画面を朱里に見せた。  ちらりと見ると、匿名で書き込みのできるネット掲示板。  九鬼が開いたのは、朱里ファン専用のスレッドだった。 .
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