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「……昔は倫弘が曲を書いてあたしが歌う、ってもっと楽しいもんだと思ってたんだけどな」
真っ赤なドレスに身を包んだ朱里は、烏龍茶を手にまた溜め息をついた。
そんな朱里の隣に、真っ黒のスーツが汚れないよう腰を下ろすと、倫弘はぼそりと呟く。
「……そりゃ、歌手になりたくてなったわけじゃないからだろ」
「そう、かも」
朱里はさっきまでの勢いを失ったかのように、足を投げ出した。
「……貴にいの舞台で、歌いたかったんだろ」
「……まー、ね。あの時はね。だけど今のあたしは、これしかないから。ホントは文句とか……言ってらんないんだけど」
「後悔してんのか?」
「そんなわけ、ないじゃん」
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