歌姫の憂鬱

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   和泉朱里(イズミ シュリ)、23歳。  音楽業界でも数ある賞レースの中で、最大にして最高と言われる年末の《ダイヤモンドディスクアワード》。  そのグランプリの座をデビュー翌年から4年連続で射止めて来た朱里は、歌姫として君臨していた。  名誉や地位を望んだことなど、一度もない。  ただ、自分の居場所や存在価値が欲しかった。  誰も代わることなど出来ない、たったひとつの自分の場所。  けれどいつしか、自分はただの歌う人形で、人間などではないのかも知れない……と、朱里の心に虚無が生まれていた。  待ち時間ばかり長いテレビ番組。  待たされた揚句、たった3分歌ったかと思えば次に使う人の為に慌ただしく楽屋を後にする。  声が出なくなるから迂闊にうたた寝も出来ない。  今日も、とっくに用意は出来ているのに出番はまだ来そうにない。 .
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