歌姫の憂鬱

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   テーブルからばさりと週刊誌が落ちた。  どうせ来週には塗り変えられる記事。  資源の無駄だと叫び出したいのをぐっと堪えて、朱里は安いストレートティで喉を潤した。  仕事は、嫌いじゃなかった。  だけど待ち時間の長いテレビ出演は好きとは言えないし、どちらかと言えばファンの顔を直接見ることの出来るライブの方が、やりがいがあるから好きだ。  けれど、そんなことCDが売れなければ出来ないし、視聴率が取れなければ出来ないし。  やりたいことの為に、あんまり意味があるとは思えないことを積み重ねなければならないなんて。  オトナの事情なんてくそくらえ、そう言いたくもなる。 「和泉さん、お願いします」  ようやくADがおどおどと楽屋に現れ、呼びに来た。  今日の気分としては更に待たされる、なんてごめんだ。  朱里はふうと小さな溜め息をつくと、目の前に広がる鏡で目の周りの陰影を確認し、立ち上がる。 「ありがとう、今行きます」  アーティスト《和泉朱里》を演じに参りますか。  小さく呟いて、朱里は立ち上がった。 .
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