5881人が本棚に入れています
本棚に追加
1時間の歌番組の中、歌を流して貰う為に必要な時間は3分間。
収録の為に必要な時間、2時間。
もう少し効率よくならないものだろうか。
収録を終えた朱里は、パーカーにジーンズというラフな格好に着替えると、大きなサングラスをかけた。
テレビ局の駐車場からそのまま車で出るから必要ないのだが、出来るだけ人と目を合わせたくなかった。
「朱里、済んだか? 次、スチール撮りだから寝るなよ」
チーフマネージャーの九鬼和哉(クキ カズヤ)が、パーカーのフードを頭に被せながら鏡を見る朱里を急かす。
「判ってるって。行こ」
グロスを落とした幾分幼い口唇。
それでも充分、和泉朱里だと判る。
整形でもしない限り、自分を見逃してくれる人間は日本のどこにもいない気がした。
何となく憂鬱な気分になりながら、朱里はフードを外し、ボロボロになったスポーツブランドのロゴの入ったキャップを被り直す。
「また、それ? いい加減に新しいのにしたらどうだ?」
「アタシ、これがいいの」
九鬼の溜め息を上の空で聞きながら、朱里は廊下の壁にぴったりくっつくように歩き出した。
と、前の方が少し騒がしい。
.
最初のコメントを投稿しよう!