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トゥルルル……
トゥルルル……
トゥルルル……
『はい』
低い声。
間違いなく貴文の、声。
「あの、あたし……朱里、です」
声が少し震えてしまった。
『ああ、待ってた。今どこ?』
「え?」
『倫弘、ぶすけながら帰ったから。どこだ? 九鬼さんも一緒か?』
「待ってよ、電話で話すんじゃないの?」
『俺、かけてこいよって言っただけだよ。こんなこみいった話、電話で出来るか』
朱里の中にまっすぐ落ちて来たその声で昔の感覚が甦り、鳥肌が立った。
「……変わってないなあ。その何様よ、ってとこ……」
あまりに昔と同じ貴文の調子に、緊張が解けた。
『……九鬼さんいるんだろ? 代わって』
いっこうに居場所を伝えない朱里に痺れを切らしたのか、貴文は溜め息混じりに笑った。
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