歌姫の憂鬱

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  「杉本さん、勘弁して下さいよ。あれは……」  九鬼さんだって、言えばいい。  相手は貴文なんだから、朱里がどこ行ったか判らなくなってパニックになった、って言えばいいのに。  ここがテレビ局の廊下だから、誰が聞いてるか判らないから──そんなことは、判ってるけれど。  どこもかしこも嘘だらけで、うんざりだ。 「九鬼さん、急ぐんでしょ。杉本さん、失礼します」 「ああ、またな」  何事もなかったかのように、朱里は地下の駐車場へと向かった。  スモークガラスの車の中は、少なくともプライベートな空間。  早く、呼吸の出来なくなるここから離れたかった。 .
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