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ウイーンとなる電動ロクロを足でゆっくりと回転させると、熊田巧は裏返しにした大皿の高台を竹串でさっとケガいて、高台の内外を仕上げ用カンナで削りだした。作品の最終工程だから無心になって作業しなくてはならない。納得がいくまで削り出すと巧は電動ロクロを止めて削り出した屑の土を払って、高台の脇に巧というサインを施し、大皿を作品テーブルの上に置いて一息ついた。ここ何年も同じ作品を作っているのだが、思ったような色合いが出せないでいた。巧はその名前に似ず柔和な顔立ちをしていた。巧は比較的痩身な体を伸ばして、この小ぶりなプレハブ建ての工房を見回した。建物の奥には灯油で焼く陶芸炉が鎮座していた。そして部屋を取り巻くように作品棚があり、部屋の中央に絵つけ用の作業テーブルがあった。そのテーブルに置いた、削り上げたばかりの大皿は、あと二週間は乾燥させなければならない。巧はプレハブを出て庭に佇んだ。
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