翔太

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木場翔太は身を半分に屈めながら、ビリヤード・テーブルの緑色のクロスの上に並んだ赤と白の硬質プラスチック・ボールの上に片手を掲げながら、二つのボールの間隔が無く接触していることを確認すると「フローズンです」と試合相手の相川老人に伝えた。ビリヤードの試合では球同士がタッチしている状態をフローズンというのだ。この場合続けて球をついても良いし、初めの状態に球を置きなおしても良い。翔太は長さ一四0センチの自分のキューの先についている牛皮のタップに滑り止めのチョークをよく塗って、接触している球を動かさないように他の二つの球を狙った。四つ球の試合である。翔太の球は一メートルほど先の赤球に当たって、そのまま前進して僅か左側にある白球に当たった。いわゆる半押し球という技である。相川老人は「ゲーム・セット」と少し唸るような声で言った。縦型のそろばん状の採点盤の上の段が三十九点だったところに十一点を足すと丁度一列がいっぱいになった。五十点の列の左側の五個のそろばんの三個が右に寄せてある。既に百五十点とったしるしである。二百点が翔太のハンデであった。対する相川老人の得点は翔太の得点の下に採点されてある。四十点が相川老人のハンデであり、三十二点まで得点していた。「もう一度やりますか?相川さん」と翔太が聞くと、今日は集中できないからいいわいとか言いながら相川老人はキューを何本かのキューが置かれた壁のケースの空いているところに閉まって部屋を出て行った。横二五四センチ、縦一二七センチの世界である。
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