翔太

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彼女とはアントニオ・ガデス舞踊団の日本講演を、新宿に二度見に行ったことがあった。演目はガデスの十八番とされている「カルメン」と新作の「アンダルシアの嵐」だった。「カルメン」を翔太はビデオ店で借りて前もって見て勉強をしていた。フラメンコ・ギターの第一人者のパコ・デ・ルシアが音楽を担当している。ビデオの「カルメン」は「カルメン」のフラメンコ舞踊として演じる過程をリハーサルを含めてドキュメンタリー風に撮影し、しかもそれが原作の「カルメン」とダブル・イメージをもって終了する内容であった。しかし講演の「カルメン」は簡単なセットの中で、物語の「カルメン」が演じられた。どちらが良いとは翔太には言えなかったが、しいて言えばどちらも良かった、というのが素朴な感想であった。講演の「カルメン」は大成功だった。アンコールの拍手を十回まで翔太は数えていたが、あとは無我夢中で他の観客と一緒に拍手をしたものだった。新作の「アンダルシアの嵐」は領主と村人達との勧善懲悪の物語を主題としたもので、十六世紀のスペインの国民的劇作家、ロペ・デ・ベガの戯曲「フェンテオベフーナ」が原題の、民衆の自由と団結を高らかに歌い上げたものだった。翔太にとって印象的だったのは、これもまたアンコールの場面であった。
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