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プロローグ
イヤホンを片手に。
波の打ち寄せる音を聞きながらひたすら海岸線を歩く。
小鳥の声を、木の葉をなびかせる風の音を聞きながら芝生に寝転がる。
焚き火の弾ける音を聞きながら宵闇に想いを巡らせる。
水の音、泡の弾ける音。光の届かない深海に下へ下へと落ちていく。
私は毎夜、旅をする。
海岸線から見える波間に煌めく尾びれ。続く入江には、長い髪を垂らし優雅に腰掛ける美しい生き物。小さな竪琴を鳴らし、魅了の歌を奏でる。
寝転んだ目の先には大空を羽ばたく大きな影。太陽を背に飛ぶ雄大な生き物は力強い。鱗に反射する陽光に目を細める。
舞い上がる火の粉と軽やかなステップ。淡い光を放ち飛ぶ姿はまるで蛍のようだ。楽しげな笑い声に頬が緩む。
光の届かない完璧な闇。それなのにどこか優しげなのは何故なのか。誰もいない事に安堵し、何もいない事に寂しさを覚える。ふわふわと漂っていると時折、微かに聴こえる音がある。高域の、普段であれば聴こえない音。途切れ途切れに聴こえるそれはまるで唄のようだった。
優しげな子守唄を聴きながら、私はそっと目を閉じた。
私だけの夢。私だけの、宝物。
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