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「僕は……お二人ほど強い訳じゃありませんから……見た目も歳も子どもで弱い男だから……」
自身の肩を抱いてルカは青ざめ震え始める。
「剣闘をこの僕がするなんて思っただけで、怖くて……今まで片付けていた死体がつ、次は自分になるんじゃないかってっ!」
悲痛な叫びを上げているとルカの肩にぽんと誰かの手が置かれた。
「フォルスさん……?」
今にも泣き出しそうな顔でルカはいつの間にか目の前に立って、自分の肩に手を載せてくれていたフォルスを見上げた。
フォルスは黙ったまま、真剣な眼差しをルカに浴びせたあと口を開く。
「ルカ……お前の夢はなんだ?」
「えっ……」
唐突に問われた問いにルカが答えられずにいた。
こんなどん底の奴隷生活を送る自分たちにそんな物を考える余裕などなく、夢見た将来もなかったからだ。
「俺も辛くなった時…いつもそれを思い出していた。そしたら不思議と力が湧くんだ……“こんなとこで終われるかっ!!”ってな」
滅多に見ることのできないフォルスの笑顔を受けて、ルカはこんな凄い人も辛い時があるのかと衝撃を受けながらも考えていた。
「僕は絵描きに……画家になるのが奴隷になる前に見た夢でした」
「なるほど…いい夢だ」
ルカが自身の夢を語るとフォルスは優しくその頭を撫でる。
そんな2人の横でタミーが感嘆の声を漏らしていた。
「へー? 画家かぁ。じゃあ、なんか描いてみてくれよ?」
ある意味でひどい無茶ぶりをするタミーにルカは苦笑いしながら、足元に落ちていた石を拾うと壁に向かう。
「もうずいぶん描いてないんですけどね……」
自信無さげに呟きながら、ルカは壁をガリガリと削り、黒ずんだ壁へと白い線で思い思いに絵を描く姿は輝いていた。
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