戦慄の劇場で…

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一仕事終えるも忍びのクロガネにとってはたわいもないのだろう退屈そうに仕留めた獲物が落ちた水面に映る月を眺めた。 月光の下、影の存在いえど自身の足元に照らし出された影にクロガネはある近視眼を覚えた。 「そうか……これがあいつの心の色なのか」 パーティー会場で一戦、一芸をまみえた黒い剣士のことをクロガネは思い起こしていた。 「黒とは本来、幾重の色が混じり合ってできた色……汚い黒。 でも、あいつの黒は混じりのない黒……だから、私は怖かったんだ」 一意専心、一途、純朴、素直等々、一つの目的のみに真っすぐにいることは欲求の多い人間には限り無く不可能な心情であるのだ。 「死を乗り越えた忍びでも難しい生き様……心の色がただただ真っ黒に染まるほどの願いを一つ。あいつは持っていると言うことか……」 おおよそ、主のティアか命ぜられた仕事以外に興味を示さない人生を送ってきたクロガネにとって、それはまるで恋のように熱い気持ちだった。 「漆黒ならぬ真黒……あいつの進む道が……一際黒い影に照らされますように……」 この夜、クロガネなりの祝福か本来、主の目の代わりに見たままを報告するはずの忍びが主の友人の妹と剣士が抱き合っていた事実を影に落とし、初めて嘘をついた────────。
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