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「怖がらないのね」
少女が口を開いた。
その声はなおも艶然とした色を崩さない。
「まだ何もされていないもの」
「ふふ、言うねえ。普通なら私の眼を直視ただけで竦みあがるのに」
「にらめっこじゃ爪弾きにされそうね」
「なんならやってみる? にらめっこ」
「No thank youですわ」
「つれないねえ」
「勝てそうにないもの」
少女から意識を逸らし、今宵も煌々と輝く月を仰ぐ。
こんな日に限って満月。嫌になる。
「で? 気は変わった?」
少女が変わらぬ声音で訊いてくる。
答えなど、とうに解っているだろうに。
「血はあげない」
「そっか。なら、仕方ないね」
そのまま、あが、と口を開け、首筋に牙を突き立てようとしてくる少女から身を反らす。
脅しが通じない、話が通じない。面倒な手合いだ。
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