殺人鬼と吸血鬼

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ほぼ無音に等しい風切り音。何が起きたか解らない、といった表情の少女。 遅れて、ぼとり、という落下音。少女の左腕が、肩口から綺麗に取れていた。 「――――――」 少女が虚を衝かれたように、呆然とした表情を浮かべている。その胸に、とん、ともう一本のナイフを突き立てる。 流れるような動作で、けれど深々と、貫くように。 数瞬の後、少女はぐらりと傾き、いともあっさりと地に臥した。倒れた際、微かな砂埃が舞った。 ……これで終わり。もう私の行方を阻む者は何もいない。ようやっと、私は悪魔から解放されたのだ。 これ以上の長居は無用。 踵を返し、一歩、足を踏み出そうとしたとき、 「…………ねえ」 ――――ぞっとするほど、背筋が凍る声を聞いた。 言葉自体が冷気を帯びているかのように、私の全身を総毛立たせる。ナイフを持つ手が、じわりと汗ばむ。 「ここに来るまでにね、ひとつ面白そうな噂を耳にしたの」 先程と変わらぬ妖艶な声音。それどころか、愉悦の色を含ませてすらいる。 私はそれを振り返らずに、そのままの体勢で聞いている。 否、振り返れなかった。私の身体は初めて、この少女の姿をした悪魔に戦慄を覚えていた。
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