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「〝この街には、夜な夜な切り裂き魔が徘徊している〟」
少女の声は囁くようでありながら、不思議とよく響く。
幼いながらも魔的な鋭利さを孕んだそれは、やはり槍を思わせた。
「その姿を見た者は誰もいない。特徴を訊いても、皆そろえて首を横に振る」
少女は詩の一節を口ずさむように、最後にそう、付け加えた。
「面白いでしょ。貴女、心当たりない?」
「残念ながら。流行に疎い生活をしているものですから」
「ふ、くく……」
私はその笑い声に言い知れぬ何かを感じて、即座に振り向き、距離をとった。
少女の躰が、無数の蝙蝠となって闇に融けてゆく。
夥しい数の蝙蝠が、不規則な軌道を描きながら襲い来る。
「ッ……、」
その全てを、両の手に握ったナイフで撃ち堕す。
閃きは一瞬。逃れる術はない。
羽を削ぎ、心臓を穿ち、眼球を抉る。
触れられるより迅く、刃を振るう。
攻撃の暇は与えない。
「……フッ、」
最後の一匹を、薙ぐようにして撃ち堕とす。シン、と、鳴き声が止み、辺りを静寂が包む。
ふう、と息をついた、そのとき。
「――――隙あり」
「……ッ!?」
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