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「はぁ、はぁ……、」
「ごちそうさま」
少女という支えを失った私は、そのまま崩れるようにうつ伏せに倒れた。
力が、入らない。
体中を甘い痺れのような感覚が駆け巡っていて、全身が弛緩したように動かない。
――――ああ。
早く、逃げなくては、いけないのに。
「動けないでしょう。吸血鬼の唾液にはそういう効果があるの。獲物を逃がさないように」
少女が何を言っているのか、よく聞き取れない。
顔を上げるのすら、億劫だ。
「ジャックなんて呼ばれてるから、屈強な男を想像してたのだけど……
事実は小説より奇なりとは、よく言ったものね」
足に力が入らない。ただ事切れた人形めいた虚脱感だけが、躯を支配していた。
「まあ無理もないか。誰もその切り裂き魔とやらの姿を捉えることが出来なかったんだから。
まさに幻影。言い得て妙じゃないの」
少女の声は愉しげだ。よほど私の血がお気に召したらしい。
顔を少女の方へと向ける。顔は合わせない。何となく、目を合わせてはいけない様な気がした。
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