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「でも、惜しかったわね。吸血鬼が蝙蝠にしか化けれないと思ったら間違いよ。多少面倒だけど、霧に化けることだって出来るわ」
混濁した意識の海へと沈んでゆく。
少女の声は、もう分からなかった。
躰中が鉛のように重い。
それでも、遥か遠く、
燦然と光を散りばめる月へと、手を伸ばした。
もう少しだけ、この包み込むような月の腕に抱かれていたかった。
ふと、光が遮られる。
何か、紅い影のようなものが立っているみたいだ。
(紅いのに、影だなん、て)
影が、ゆっくりと近づいてくる。私は意識を手放した。
(月が、見え、ない)
目の前の影が邪魔だなと、それだけを思った。
瞼を下ろす直前、パチンと、指鳴らしの音が響いた。
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