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――――お嬢様の全身には、あらゆる刃物が刺さっていた。
ナイフ、包丁、ステーキナイフ、フォーク、短剣、小剣。およそ刃物と呼べるものすべて。
一体何と闘ってきたのか。
少なくとも、ハンターではないだろう。やり方が雑すぎる。
腕の中で静かに寝息を立てている少女を見下ろす。よく見ると頬に真新しい切り傷があったが、血は出ていないようだ。
試しに腕や脚を二、三度触ってみると、それなりに鍛えられていることが分かった。ほお、と感嘆の息を漏らす。
と言ってもそれは人間の範疇だ。せいぜい大の男を一人相手に出来るかどうかという程度。
私やお嬢様といった妖怪を斃すには遠い。考えるまでもなく勝負にもならない。
「……やっぱり誘拐?」
確かに美味そうな人間(ちなみに私に食人の趣味はない)だが、こんな若い、いや幼い娘を食らうためだけにわざわざ連れて帰るだろうか。
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