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「…………ふむ」
矮小な妖怪の身である私には、偉大なる我が主の考えなど理解できよう筈もなかった。
従者の私に理解できないのだ。この人間に解るはずもない。
考えるのは止めにして、この人間を介抱することにした。
屋敷は広い。空き部屋なら腐るほどあるだろう。
「――――――、」
門を横切る際、かすかに口端を吊り上げていたお嬢様の顔を思い出す。
あれは、いつになく、愉しそうな顔だった。
躰中をめった刺しにされ、片腕を切り落とされながらも、なお、笑っていた。
その痛みすら愉しむように。
その運命をも呑み込むように。
「なにかいいことでもあったんですかねえ」
器用に肩を竦めながら、ふと呟いた。
――――ジャラリ。
背中越しに、何か鎖のような音がした。
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