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まもなく少女が目の前までやってきた。
私はというと、壁を背に座っていたので、少女を見るには顔を上げる必要があった。
目が合った。
紅い紅い、血のような色をしていた。どこまでも深く、じっと見つめていると吸い込まれそうだった。
「こんばんは」
少女が言った。
妖艶な、けれど槍のように鋭利な声は、逃れられないよう、心臓に深く突き刺さるように響いた。
こびりついて、離れない。
「……Goodevening,
mademoiselle.」
――――こんばんは、お嬢さん。
私の口から放たれた流暢な出鱈目言語に、少女は一瞬ぽかんとした後、可笑しそうに笑った。
「なにそれ、ごちゃ混ぜじゃないの、くすくす」
「伝わればそれでいいの」
「あら、日本語も話せるの?」
「嗜む程度、だけど」
「その割には流暢じゃない、くすくす」
少女は何がそんなに可笑しいのか、しきりに笑っていた。私はそんな少女を見上げるだけだった。
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