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その頃、ウィンフォード西側、一番外側の街は、騒然としていた。
街に、ヒドラというドラゴンの亜種が現れたからだ。
ヒドラは、ドラゴンの中では下位の種族にあたる。
とはいえ、ドラゴンや竜というのは魔物の中でも最上位の部類に属する種族であり、いくら下位の種族であるヒドラといえど、普通の人間には討伐など不可能に近い。
過去にヒドラ一匹の為に滅亡した国があるほどである。
ヒドラの特徴は、高い再生能力と猛毒の息と血である。
そして、ドラゴンや竜の類は、総じて魔法に対する耐性が強く、通常の魔法は効果が薄い上、人間と同等かそれ以上の知力を持っている。
ただ人里を嫌うため、ドラゴンや竜が姿を現すのは、何十年に一度あるかないかの事である。
そんなヒドラに、近くで巡回していたウィンフォード国軍の兵士が、四~五人で必死に立ち向かう。
しかし、ヒドラを足止めすることも出来ていない。
後退しつつ、市民が逃げる時間を稼ぐのが精一杯の様子だ。
そして、その時間稼ぎも、そろそろ限界だった。
「くそっ、時間稼ぎも出来ないってのかよっ!」
若い兵士が悔しそうに叫ぶ。
すると中年の兵士が若い兵士を鼓舞する様に返す。
「がんばれ! 諦めるな! もう少し頑張れば≪大地の守護者≫の応援が来る! それまで耐えるんだ!」
若い兵士が、苦しそうに答える。
「隊長、自分はもう駄目です! 隊長だけでも逃げてください!」
そんな中、逃げ惑う人々に逆行して歩く人影があった。
不敵な仏頂面、漆黒の眼光を放った黒いローブの青年だ。
青年は、ゆっくりと、ヒドラのいる場所へと近づいていく。
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