英雄の帰還

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中年の兵士は、怒鳴る様に青年に声を掛けた。 「馬鹿野郎! あれが見えねぇのか!? さっさと逃げろ、俺達も長くは持たねぇ!」 何も聞こえていないかの様に、ヒドラへと近づく青年。 中年の兵士が、青年に気を取られた刹那、ヒドラがその長い尾を振り回した。 中年の兵士は間一髪、ヒドラの攻撃を後ろに飛びつつ回避したが、若い兵士が避け切れずに弾き飛ばされ、少し離れた民家の壁に激突した。 「トーマス! くそ~!」 中年の兵士はそう叫ぶと、何か決意したかの様にヒドラを睨んでから腰の剣を抜いた。 そして 「くそっ! よくもトーマスを!」 そう叫んでヒドラへと走り出した。 その時、兵士の肩を何者かが掴んだ。 兵士が驚いて振り返ると、肩を掴んでいるのは先程の青年だった。 青年は兵士の肩を掴んだまま、「やめろ」とでも言うように、寡黙に首を横に振った。 そしてヒドラを見ると、兵士の肩から手を離し、またゆっくりとヒドラの方に歩き始めた。 「やめろ! 死にたいのか!?」 中年の兵士が叫ぶ。 しかし青年は振り返ることも無く、ヒドラに近づいて行く。 ヒドラが青年を睨む。 そして猛毒の息を吐きかけた。 「くそっ! 無茶しやがって!」 中年の兵士が、青年の死を確信した様に叫ぶ。 次の瞬間、中年の兵士は自分の目を疑った。 青年は、何事も無かったかのような仏頂面を浮かべ立っている。 その上、飛行能力の無いはずのヒドラが、ぐったりして巨体を空に浮かべているではないか。 「馬鹿な……」 中年の兵士は、無意識にそう呟いて絶句した。 中年の兵士は、しばらくして思い出したように、辺りを見回した――誰かを探しているようだ。 「トーマス! 大丈夫か!?」 「隊長ぉ~!」 するとヒドラの尾に弾き飛ばさた若い兵士が、ケロッとした元気な顔で走ってきた。 「トーマス!お前……なんとも無いのか?」 驚いた様に中年の兵士が若い兵士に聞くと、 「それが隊長……どこも痛くないし、逆に調子が良い位で……どうなってんだか……」 若い兵士は、そう困った様に首を捻りながら答えた。
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