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そんなトーマスの答えに、中年の兵士は、青年の立っている方を振り返った。
しかし、そこに居たはずの青年は姿を消し、ヒドラも姿を忽然と消していた。
そして何事も無かった様に、シトシトと雨を降らせる空を見上げて、中年の兵士は小さく呟いた。
「夢でも見ていたのか俺は……」
シトシトと雨は降り続いていた。
街が、平静を取り戻した頃、黒いローブの青年は、大きな外側の城壁の西門にいた。
雨は、青年のローブをぐっしょり濡らしていたが、気にする様子は無い。
街は、雨が降っていても賑わっている。
街を見渡す様に見ながらゆっくりと歩く青年。
この青年こそ≪正義の番人≫と呼ばれる英雄、≪スコール ミーティア≫なのだ。
しかし、彼の顔を知っているのはごく一部の人だけであり、名前、年齢も極秘事項に指定されている為、誰もこの黒ローブの青年が≪正義の番人≫であるとは気付かない。
実際、≪大地の守護者≫のメンバーであってもスコールの顔を知っているのは≪七帝≫とその他数名だけであるし、≪七帝≫の顔ですら一般には知られていない。
スコールがこの街を訪れるのは、姿を消して以来、実に五年ぶりである。
五年前は荒れ果てていた街は豊かになり、皆が幸せそうに暮らしている。
スコールは、大地の守護者本部の西側の公園まで来ると、公園の入り口の看板に大きく書かれた≪正義の番人公園≫の文字に目をやり、仏頂面をしかめた。
その後五年前には無かった、大地の守護者の本部をマジマジと見上げながら、一つ溜息を吐いてから再び歩き出した。
スコールが今回、ウィンフォードを訪れたのは現在≪大地の守護者≫の本部長を勤める≪カイル ギルティア≫からの「至急戻られたし!」という緊急連絡があったためだ。
五年の間、イブリース各地を放浪していたスコールを、温かく見守ってきてくれたかつての戦友達の緊急の呼び出しである。
よほどの事があったのだろうと推察して五年ぶりにこの地に戻ってきたのだった。
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