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けど今回は。
「……自分からだった」
ボタンもそうだ。
風呂から出てきたときに前が全開だったから、「風邪引くぞ」って俺が言ったんだ。そしたら「じゃあ美咲がして」って。
髪は俺が見っけて拭いたけど、それでも抵抗されなかったこと今までなかった。いつもは「いい」って言って逃げるか、俺が拭いたとしても途中で「放っておけば乾く」と言ってやめさせるパターンだった。
「もしかして……」
あんた甘えてたの?
膝の上で眠る恋人に聞いてみても当然返事はない。だが俺の顔には微笑みが浮かんでいた。
あとでゆっくりと思い返して考えてみないとわからないくらいの甘え方。
もっとあからさまにべったりと甘えてくれたっていいのに。とは思うものの、実際そんな風に甘えられた日には、なんだか気持ちわるくて顔面を殴っていると思う。
「獅毅にもかわいいとこあんだな」
もう一度ほっぺをつついたあと、薄い唇を撫でる。
柔らかいこの唇からあの低い声が発せられる。勝ち誇ったように口角を上げて笑う。巧みなキスをして俺を翻弄する。
「あ……」
やばい。すっごいキスしたい。
獅毅の唇を撫でて、思い出したキスの感触。すると無性にキスがしたくなってしまった。どんなキスでもいい。とにかくしたい。
空いている手で無意識に自分の唇も撫でる。
「……」
キョロキョロと意味もなく周りを見回す。俺と獅毅しかいないのになにしてんだと自分で自分にツッコミ。
それから深呼吸を何度もして落ち着こうとするが、時間が経てば経つほどキスをしたいという気持ちが大きくなる。
じっと獅毅の唇を見つめる。緊張で乾いた自分自身の唇を舐めて湿らせた。
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