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「おお!かっこいい!」
獅毅を探すよりも先に、躾の行き届いた大きな犬が芸を披露している姿に俺は目を奪われた。
すげーすげーと数分見ていたが、「あ!」と声を上げてその場を移動する。
ごめん、獅毅。俺、獅毅より犬優先してた。
心の中で詫び、広い庭を歩き回る。そこかしこに放してある犬が寄ってきて、つい遊んでしまいそうになるけど、そこは我慢。
獅毅を探すのが先。獅毅を探すのが先。
濡れた無垢な瞳に見つめられてうずうずしてしまうが、それを振り切ってただ一人の男の姿を探した。
「あ、いた!」
それから間もなく探し人は見つかった。傍らに上品な容貌のゴールデンレトリバーがいる。
「し……」
小走りになりながら名前を呼びかけて、やめた。足も止めた。
ゴールデンの頭を撫でる獅毅が女の人と話をしていたからだ。さっきまで犬の遊具で隠れていて、女の人がいることに気づかなかった。
茶色い髪の背の高い女性。スタイルもよくて綺麗な人。
なにやら会話をしているらしい二人と一匹は認めたくないけど、すごく絵になる。
「……」
結局獅毅に声をかけることはできず、俺は静かに、けれどできるだけ急いでその場から離れた。
早々に中に戻った俺は子犬と遊ぶ部屋も通り抜けて、ドッグランに出てきていた。
飼い主と遊んだり、犬同士がじゃれあったりする中で俺だけが一人きり。俺は犬を飼っていないから当たり前なんだけど、それが無性に寂しかった。
端っこのほうにあるベンチにちょこんと座って、楽しそうな光景を眺めていた。
「……はー……ああー……」
あの女の人は誰だったんだろう。獅毅の知り合い?会話の内容はわからなかったけど、親しそうに喋ってるように見えたし。
見た目も綺麗だった。美男美女のカップルに見える組み合わせ。
「それに……」
獅毅は鳳家の後継者だ。
今はいいかもしれないけど、後々婚約者ができるんじゃ?だから将来を考えるとやっぱ男の俺よりも女の人相手のほうがいいんじゃないのかな……。
いつか別れるときがくるのかな。そのとき俺は獅毅から離れられるのか?俺から獅毅をちゃんと解放してやれるのか?
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