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「あ、おい!美咲っ!」
獅毅の脇を擦り抜けて走り出す。驚いたような獅毅の声が俺を呼ぶが、無視して走った。ドッグランにいる人たちの視線が集まっても気にせずに。
そのままドッグランを飛び出し、街中を走っていく。
「美咲!待てよ!美咲っ!!」
獅毅が追ってくる。俺は逃げる。追い付かれたくなくて。今は顔を見られたくなくて。見たくなくて。
それでもストライドの違いで徐々に距離は縮まる。そして遂に獅毅の手が俺の腕を捕らえた。ぐっと引っ張られて、足元がふらつく。
「離せ!馬鹿獅毅っ!」
「離さない」
「くっそ!離せってばあっ!!」
俺の腕を掴む手をガリガリと爪を立てて引っ掻く。顔を顰めた獅毅。しかし手は離れない。
寂しさは怒りに変わり、俺は往来にも関わらず怒鳴る。
「俺なんかどうでもいいくせに!」
「はあ?」
「お前はなにをわけのわからんことを言っているんだ」と器用に片眉を跳ね上げた男の表情が語る。それがさらに俺の怒りに拍車をかける。
「なにが“はあ?”だよっ。とぼけんな!さっきの女の人、仲良さそうに話してただろ!?スラッてしてて綺麗な人だったし、おっぱいもでかかったし!!」
道行く人々が何事?とばかりに俺たちを見ていくが、男同士の痴話喧嘩とわかるなり、無関心を決め込んで通り過ぎていく。
黙ったまま俺の言うことを聞いている獅毅に苛立ち、怒りのメーターが振り切れたところでダーッと一気に涙が零れた。
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