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「しっ獅毅、は……おれ…おれより、お…なの人のが……っ」
俺をただ静かに見つめているだけの目と目を合わせていたくなくて、くしゃくしゃに顔を歪めて俯いた。それから力なく目の前の逞しい胸板を殴る。
胸が痛い。獅毅と付き合うようになってから、こんなにも胸が痛くなるなんてことなかったのに。ひさしぶりに味わう強烈な胸の痛みに心臓が押し潰されてしまいそうだ。
そう思ったとき。
「……ぷっ…く、くくっ。ははははっ!」
我慢できないと言いたげに獅毅が噴き出して笑い出した。しかも声をあげて。
突然の出来事に俺はどうしたらいいかわからず、ぽかんと間抜け面を晒して、笑う獅毅を数秒間見つめていた。涙も驚きのあまり止まってしまっている。
しかしすぐに我に帰った俺は、再度柳眉を逆立てて肩を揺らして笑う男を睨み付けた。
「なにがおかしいんだっ!」
「ふ、っくく…やべ…腹痛い……」
「てんめぇ、髪の毛全部引っこ抜くぞ!この宇宙人めっ!!」
怒りをそのまま言葉にしてぶつければ、それが消えかかっていた笑いの炎を再燃させてしまったようで、またもや爆笑。怒っても怒っても笑われるという状況に、俺は徐々にいたたまれない気持ちに。
怒る気はすっかり消失。目の前のこいつをどうしてやろうか?と思えるくらい余裕が出てきた頃、ようやく落ち着き始めた獅毅。
「あー……くっそ笑った。腹捩れるかと思った」
「………だろうな」
ご丁寧にも感想まで頂いた俺は不機嫌な表情を隠しもせずに横目で睨んだあと、プイッとそっぽを向いた。
そのまま帰ってやろうかと思って歩き出せば、すぐに腕を掴まれた。
「んだよ……」
「お前、嫉妬したんだろう?」
「は…?な、に…言って……」
目が泳いだ。
そうだ。あれは嫉妬だ。
今までも小さな嫉妬は経験したことがある。けど今回みたいにすっごくムカついたり、すっごく悲しくなったりしたことはなかった。こんなに激しい嫉妬はしたことがなかった。
「嫉妬したんだろ。違うか?」
今さら言うのもなんだか恥ずかしく、黙りこくっていればもう一度同じことを言われる。窺うように上目でちらりと見れば、切れ長の目が「どうなんだ?」と語っていた。
迷いに迷い、観念した俺は小さく頷いた。
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