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「言いたいことがあるなら言えよ?」
「別に……」
俺がそう言えば、「そうか」とだけ言ってまた口を閉ざす。
……本当は言いたいことがある。
もう怒ってないよってこと。あと勝手に誤解して、理不尽に怒ったことを謝りたい。それからケーキとか奢って機嫌を取ろうとしてくれたこととか、素直になれない面倒な俺に付き合ってくれていることとかに対してありがとうって。
それなのにどうしてか喉に突っかかって止まってしまう。代わりに出るのは素っ気ない言葉ばかり。
そんな俺が俺はきらいだ……。
ぎゅっと膝の上の手を握りしめる。眉間にもぎゅっと皺が寄り、唇を噛み締めた。
そんなとき。
「……?」
獅毅?
ほんのちょっとだけ開いてしまっていた隙間を詰めた獅毅が、俺の頭を自分の肩に預けさせてきた。
わけがわからない俺はその状態のまま上目で獅毅を見る。
ぽんぽんと俺の頭を軽く叩いたあと、黒い瞳がこちらを向いた。
「お前が言いたいことは大体わかってる」
「……え?」
「だから、いい。まあさっきも言ったが、それでも言っておきたいなら言え。俺だって美咲が思っていることの全てがわかるわけじゃない。俺は美咲じゃないからな。言葉にしないと伝わらないこともある」
獅毅は、さ……なんなんだろうな。一体。
素直じゃない俺の頑なな心を解かすような……そんな人。
「あの、獅毅……?」
「なんだ」
「…………ごめん。それから、ありがと」
低い声が笑った。
言いたいことが全部言えたわけじゃないけど、その小さな笑い声から獅毅には伝わっているだろうことがわかる。その証拠によくできましたと言わんばかりに、大きな手が俺の頭を撫でて髪を梳く。
俺は目を瞑って、ほぅっと息を吐いた。
ようやく心が落ち着いた気がする。
……なんかあまり認めたくないし、悔しいけど、獅毅には勝てないなって思った。人様より我が強いけど、かっこいいし、賢いし、優しいし、なにより俺のことをちゃんと考えてくれるし……。
ほんっとムカつくくらいにいい男。
好き。大好き。愛してる。
「獅毅のばーか」
「はあ?」
でも絶対言ってなんかやんないもんねっ!!
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