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高校生の感覚は僕にはわからなかった。そもそも僕の趣味嗜好は人から見ると偏った部類に入るらしいので、なかなか気に入ったものを見つけられないのだが。 「店長これ聞いてみてくださいよ」 そう言ってアルバイトの女の子は僕に音楽CDを渡してくれた。CDは純正品ではなくコーピー品で、透明なCDケースに入っている。CDの白い表部分に片仮名でカズカズコと書かれていた。 「カズカズの新しいアルバムなんです」 女の子は笑っていたと記憶している。笑顔はどこか精巧なロボットを思わせた。そのとき僕はどこかの大学で人の表情を研究してロボットに人間の表情筋の動きを模倣させるという研究を思い出していた。……はずだ。 ありがとう。聞いてみるね。みたいな返事をしたんだろうと思う。そのとき僕はどんな顔をしていただろうか。 <1234567 123456789 十!> スピーカーから音楽が流れて、さっきからカズカズコが歌っている。少しかすれた歌声で、音質はどことなくくぐもっていった。僕はカズカズコのことを知らないけれどこれがソウルであることはわかった。 <十の次は十一 果てがない 果てがない> 僕の脳裏にはレコディングルームでマイクに向かって力の限り歌うカズカズコの姿が再生されていた。必死になって数を数える歌を歌う彼女には共感できるような気がした。 「でもやっぱりわからない感覚だ。どうして数を数えているんだ?」 僕は独り言を言った。
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